欧州PEファンド案件の攻略法|欧州M&Aブログ(第6回)

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Brexitなどによる先行き不透明感により欧州のプライベートエクイティ(以下PE)ファンドの活動も低調では?と考えてしまいがちですが、実際にはPEファンドは買収、売却ともに非常にアクティブで、毎日のようにPE関連案件が公表されています。今回は、欧州でのM&Aを検討するうえで無視できないPE関連案件の攻略方法について考察してみたいと思います。

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Brexit後も欧州PEファンドは活発?

欧米ではPEファンドによる企業の買収、再建、そして売却というプロセスが企業活性化のひとつのプラクティスとして完全に定着しています。今年発表された業界最古のPEファンドであるKKRによる日立工機や日立国際電気の買収など、日本でもそのプレゼンスは年々上昇しています。2016年のPEファンドのグローバル受託資産残高は約1兆4,740億USドル(約164兆円)* 、資金調達額は約2,100億USドル(約23兆円、前年比33%増)*、PE関連案件取引規模は約3,188億USドル(約35.5兆円)**に上りました。

PEファンドの動きが活発化している主な要因は、近年の順調な保有企業売却(エグジット)と、その結果としての順調な資金調達(ファンドレイジング)にあります。金融危機前(2008年以前)に訪れたバイアウトブーム時に買収した会社についても、株高・低金利環境によりM&A市場が好調だったこともあり、ここ数年でエグジットが大幅に進みました。その結果、PEへの投資家は多くの資金を回収することに成功し、それが更なるPEファンドへの新たな資金供給につながるというサイクルが出来上がっています。現に直近のPEの未使用のファンド資金(ドライパウダー)は史上最高額レベルに達成しています。

とはいうものの、地域別には濃淡があります。欧州におけるPEファンドのファンドレイジング金額は2015年比28%増、案件数は7%増でしたが、一方米国ではファンドレイジング及び案件数ともに減少しました。欧州が堅調だった背景には、ドイツ、オーストリア、スイス(いわゆるDACH)におけるPE活動が非常に活発だったことがあります(前年比22%増)。特にドイツは、政府主導で進めるIndustrie4.0(第4次産業革命:製造業のデジタル化を目指す戦略的プロジェクト)により、欧州のテクノロジー革新の中心地として魅力的なターゲットを多く産み出しており、PEファンドの多くが着目しています。
*McKinsey Global Private Markets Review February 2017より
**EY 2017 Global PE Watchより


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PEが保有企業を売却する相手はPE?

これまでのPEファンドのエグジット戦略は、買収後の戦略やシナジーを考慮した高い価格を提示できるストラテジックな買い手候補、すなわち事業会社への売却というのが王道でした。言い換えれば、PEファンドのようなファイナンシャルバイヤーは、企業買収のための外部借入額に限界があり、事業会社が提示するアグレッシブな価格に対抗することができませんでした。

しかし、上述のようにファンドレイジングは好調で、加えて量的緩和に伴い金融機関からの買収ファイナンスも容易になっています。つまり、今PEファンドは2010年の欧州危機の頃とは異なり、事業会社に対抗できるアグレッシブな価格提示ができる状況にあります。事実として、PEからPEへの売却は、昨年比26%増加となり、過去5年でみればその規模は年率14%*で成長しています。

多くのPEファンドは、得意とする事業セクターや狙う案件サイズなど、明確な投資クライテリアを持っており、そのクライテリアを満たす案件であれば短期間で買収を決断します。小職が英国で関与した案件では、売主のPEファンドは最初から買い手候補の本命として(事業会社ではなく)PEファンドを想定しており、資料開示から一次入札までの時間は20日程度しか与えられませんでした。事業上のシナジー検証などが必要となる事業会社にとって、このような高速プロセスを勝ち抜くことは容易ではありません。
*McKinsey Global Private Markets Review February 2017より

PEファンド案件を攻略するためには

価格ではなくターゲット企業の経営陣との相思相愛が決め手になると言いたいところですが、PE案件においては一番札(最高値)を入れることができるかどうかが勝敗を決します。そして、競争力のある価格提示ができることを前提とすれば、「いかに提示する買収価格を正当化するための時間を確保できるか」がポイントとなります。

買収価格の正当化のためには、ターゲット企業に対する十分な理解が不可欠です。しかし、一次入札前に配布される資料のみでは、特に経営陣が描く成長戦略や主要顧客情報など、会社の実態を把握することが難しいケースがあります。従って、やはり直接面談のうえ、必要な情報に可能な限り早期にアクセスするという努力が必要となります。

「社内でこの会社の買収のコンセンサスが得られているわけではないので売り手との面談は躊躇される」というコメントも頂戴しますが、面談することで入札の義務が生じるわけではありません。売却プロセス前に面談をすることができれば、売り手のエグジットに対する考え方やターゲット企業の最新状況を理解することが可能になるのはもちろんのこと、プロセス前からの検討スタートですので、社内での検討時間を確保することにもつながります。何より、場合によっては売り手との相対交渉による買収の途も開ける可能性があります。

GCA欧州チームはPEファンド関連案件を数多く担当しており、各ファンドのエグジット戦略に精通しています。プロセス前のFace to faceでの面談など、PEファンド関連案件における戦略的アプローチにおいて、是非我々のノウハウをご活用頂ければと存じます。

記事監修

この記事を監修している弊社担当者です。